VOCALOID声の話 KAITOをどう生かすか
今更なんですが、VOCALOIDの声のタイプの話です。
最近神調教の動画を見つけまして、それが
神無月pさんという人の「daze」です。
聞けばわかるんですが恐ろしいほどの調声で、まるで人間のプロシンガーが歌っているよう。この方はvsqxを配布してくださっているのでせっかくなのでダウンロードし、うちのボカロ達に歌わせて彼らの声の違いを検証してみました。
対象ボカロは4人。
鏡音リン、レンv4x、v4flower、KAITO V3です。
この中の誰かを(鏡音はペアですが)お迎えしようかなと思っている人にはちょっと参考になる内容かもしれません。
ちなみにボカロ使用歴
KAITO4年、他3人が2年です。
まずダウンロードしてきたvsqxをpiapro studioに放り込みます。
パラメータは音量以外いっさいいじっていません。
KAITOは原キーだと高音が辛そうだったので1オク下げ。
最初は一人ずつ聞いてみました。
やっぱり鏡音はPowerライブラリがこういう歌い上げるロック系には映えますね。他のserious,cold,sweet,warmでも試したのですがこもってしまってあまり聞こえませんでした。たぶんオケと合わせるとかき消されると思います。
flowerはこういうロックの為につくられたライブラリですから当然かなりロックっぽく歌い上げてくれました。4人の中で最もこの曲を上手く歌いこなしてました。
問題なのがKAITO。他のライブラリを聞いた後だと明らかに声が弱いのがわかりました。KAITOのライブラリは4種類あり、その中で鏡音のpowerにあたるのがstraightですが、powerに遠く及ばないほど声が優しいです。
この4人、声の弱い順で並べるとKAITO<<<リン<レン<flowerです。
試しにKAITOを他のライブラリとデュエットさせてみました。
まずリンと。
ボリュームが同じくらいでもまあまあ聞こえます。そもそも声質が全然違いますからお互いをかき消し合うことはないです。
次にレン。
レンとkaitoは発声の仕方は違うんですが声は似たタイプ。つまり喉を開いて声を出す女性声優さんの少年声と男性の声。
kaitoがオク下とはいえ同じ音量だとkaitoは歌詞が聞き取れないくらい聞えません。
さすがにレンをcoldやseriousにするとkaitoの方が目立ちますがそれだとロックとして成立しないのでレンの音量を8割くらいに落として合わせました。
一番大変だったのがflowerとkaito。
flowerは声質がレンと似ているので声もkaitoと被るところがあります。
かつ、flowerは声に張りがあって歌い上げるタイプ。kaitoと真逆なので一緒に歌わせるとkaitoはベースになってしまいました。「いる」ことがわかるくらいにしか聞えないのです。
さらに驚いたのはkaitoを原キーにすると最早歌っていることすら分からない。ミュートになってるのかと何度か確認しましたがフラグが動いてるんですよね。
kaitoの音量は常にマックスになっているのでflower側を落とすしかありません。
この二人はデュエットには向かないと感じました。
このボカロ達、それぞれ発声の仕方が違うんですよね。
声にパワーがあって腹から出している、歌い上げているライブラリがレンとflower。
どこかで「レンの発声はマイクなしで声を30m先に飛ばす歌い方」と聞いたことがありますが、まさにそうです。flowerはそれをさらに30mぐらい遠くした感じです。
まさに「歌い上げる」シンガー。
一方、リンとkaitoはマイクがあるのが前提の繊細な歌い方といってもいいと思います。リンはpowerのライブラリは確かに張りのある強い歌い方ですが、レンには及ばないと感じます。もちろんロックも歌うことができるのですがおそらくステージで歌ったらかきならされるギターに消されがちでは、と思える声です。kaitoはそれをさらに繊細にした感じです。
「歌い聞かせる」シンガーといったところでしょうか。
ところで、ボカロのパラメータにはダイナミクスというのがあります。これは主に発声を強くする、パラメータとして使われます。
じゃあ、このダイナミクスを思いっきりあげればkaitoだってロックを歌い上げられるんじゃ?と思いますよね。
ところが、このダイナミクスというのは簡単に言えば音量をあげるものです。
例えば「君がいた」という歌詞の「が」を強調したいなら「が」の音量をあげて主張させるのです。
音量を一瞬あげるだけですから声質は変わりません。
ダイナミクスをあげまくったところでkaitoの優しい声は優しいままです。決してflowerのような声にはなれないのです。
おそらく「声を変える」パラメータとしてはジェンダーファクターくらいしかないと思います。
これは結構わかりやすいパラメータで、レンで言うと上げると「レンの低音」になり下げると「ショタレン」になります。
kaitoだったらジェンダーファクターを上げて低音を強くすると少しはっきり歌う声になります。やりすぎると軍歌歌手みたいに・・・
これぐらいですね、kaitoの声を張があるように変えるのは。
じゃあkaitoはダメな子なのか?
いえいえ、全然そんなことはないです。
確かにパラメータを細かくいじる調声をやりたいなら当然ロックのほうがいいわけですからkaitoだと初心者には難しいです。
何をどうやっても「歌い上げる」ようには歌いませんから。
ロックをメインでやりたいなら断然flowerをおすすめします。レンも大丈夫。リンもレンよりは大人しめですがロックにも向きますよ。
kaitoはこの3人とは一工夫した調声が必要です。でもそれがのちのち他のボカロを調声するときに役立つと思います。
kaitoはv3なのでグロウルが使えません。かつ発声が弱い。
そういう時はパラメータとともに打ち込む歌詞にも一工夫します。
例えば「また明日の君が~」という歌詞の「明日の」の後に一瞬間を開け、次の「き」を強く発声させたいとします。
普通に打つと「の」の後に一瞬間があるにも関わらず母音の「お」が「き」の初めに発声されてしまい変なひっくり返りがあるように聞こえてしまう、ということがkaitoでは良く起こります。
つまり「また明日のっ、君が」と歌ってほしいのに「また明日のぉ君が」と歌ってしまうということです。
これがKAITOの声がしばしば能天気に聞こえる原因かも。
これを防ぐために「の」の一瞬を空白ではなくブレスで埋めます。そうすると「の」の後に間が空き、かつ「き」の発声が強くなります。「の」と「き」で完全に音が切れるのです。
ベロシティをいじらずにはっきり「き」と言ってくれるのでノイズにならなくてすみます。
これはkaitoユーザーでなかったら気づかなかったかもしれないテクニックでした。
このように新しい技術を自分で発見していくのが面白い人にkaitoはうってつけです。のんびりいろいろ自分で発見していきたい人にはおすすめですよkaito。
最後にこれは僕の感想ですが、彼はある分野では最強になります。
ボカロなので普通の男性が出せない音域だって出せるには出せるんですが苦しげな高音になります。
他のリンレン、flowerがらくらく歌いこなす歌でもそのままのキーだとkaitoには高すぎ、声が細く、無理しているように歌います。
その苦しげな高音は曲にあるジャンルにはマッチします。苦悩を表現するとかね。
見方を変えればこれは強みです。苦しげな高音は他の女声(レンも含め)ではなかなか表現しづらいですから。
叫ぶような苦しい高音って、悲劇を歌うにはぴったりなんですよ。男声は特に「何かあるな」と思わせる声だと思います。
結果、kaitoは何でもこなせるオールラウンダーではないですが、曲が優しい声質や苦しい高音にマッチすれば無双します。個人的には男声ボカロの中で最もバラードの似合う人だと思います。
苦しい高音で作り込んでいけば悲劇的なロックには似合うかも?
kaitoの可能性は無限です。
もしお迎えしたらどうぞ可愛がってあげてください。いつの間にか曲作りに欠かせないパートナーになります。